古代より復活した邪悪な魔法使いによって危機に陥ったアケロニア。王であるコナンは魔法使いに対抗するためにアーティファクトを求めて旅立ちます。今回のは長編になっていることもあって、コナンがいろいろなところでバリエーション豊かな立場での冒険が描かれるところが特色ですね。ある時は中世騎士物語めいた血沸き肉踊る合戦絵巻、またある時は奇怪な習俗の異国情緒を楽しみ、あるいは暗く怪物が蠢く地下迷宮を切り開き、ある時はコナンを追う刺客とのバトルを繰り広げるます。とにかく色々な展開がこれでもかと詰め込まれていて、とても豪華な幕の内弁当のような物語になっています。
一方で、どのエピソードも、今までのコナンシリーズで見たことがあるような、ぶっちゃけて言うと焼き直しに近いものが多く(特に前半)、新鮮味にはいささか欠けるのが難点です。邪悪な魔法使いによってコナンが危機に陥ると言う展開も、ほぼ「真紅の城砦」と同じ展開ですし(そこに限った話ではないけど)、その後、捕らえられた地下迷宮から脱出するところも同じです。また、いろいろ話を詰め込み過ぎたせいで、それぞれの要素が散漫になってしまった印象があります。迫るキタイの暗殺者とか、迷宮の奥の女吸血鬼とか、もっと話が転がる要素がいくらでもありそうなのに、あっさり終わってしまった。この辺り、個人的に評価が難しいところだと思います。
しかし、コナンが一人でスティギアに潜入するシーンなど、いかにも荒々しくも野蛮なヒロイックファンタジーの風味があって楽しくなりますし、突然始まるキタイの暗殺者vsスティギア神官の異能バトルなど、見どころはいっぱいあります。いきなりスティギア神官がステゴロで戦い始めた時はどうしたことかと。この人たち、クラスがモンクだったのか……。また、スティギアに単独で潜入したコナンが、潜入の技術など何もないせいですぐに正体がバレて腕力でゴリ押しをするわ、女吸血鬼にだまされて迷宮の奥深くに連れ込まれるわ、ローグのいないTRPG感があってニヤニヤしてしまいました。やっぱバーバリアン一人で潜入捜査は無理あるよな!D&D(ダンジョン&ドラゴンズ。もっとも歴史の古いテーブルトークRPG)はコナンの影響を受けているということを改めて実感しました。
見過ごせない欠点は多いけれども、最初の方に幕の内弁当と書いた通り、とにかく内容が充実していて盛り沢山なので、満足度は高いことは間違いありません。これがハワードによるコナンの最終巻であることを考えれば、似たような要素も今までの集大成ととらえるべきかもしれません。別にコナンシリーズには驚きの展開など求めていないですしね。
総評
コナンシリーズを読み続けてみた結論。やはり傑作ですねこれは……。もちろんすべてを肯定できるわけではありません。確かに現代の感覚からいうとキツいところはいくつかあります。特にネグロイドの人たちに対する強烈な差別意識は現代にはあり得ないレベル。もちろん、これは時代の感覚と言うもので、作者の責任ではありません。その辺は割り切っておきたいと思います。また、途中でマンネルになってダレるところあるし、明らかに適当に書いたと思しきエピソードもあります。しかし、コナンシリーズには現代の視点から見ても未だに古びず、時代を超えた普遍性を獲得している作品であるということは間違いありません。
人間の世界に、神秘と混沌と闇が深くわだかまっていたハイボリア時代。異形の、それでいて現代にどこか地続きに感じられる怪物たち。そのすべてが未だに生き生きと感じられるのは、やはりヒロイックファンタジーというジャンルそのものが、コナンシリーズというイメージに依拠しているのでしょうね。コナンの冒険は形を変えて小説やゲーム、もちろんTRPGにもなって今でも続いている。そのことを感じられた読書体験でした。
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