黒い予言者(ロバート・E・ハワード/創元推理文庫)
読んでいてふと気が付く。英雄コナンシリーズってなろう小説じゃないか!
詳しく説明します。ここで言うなろう小説とは、いわゆる異世界転移あるいは転生ものの定型を指します。主人公はチート能力を持ち、戦闘では圧倒的に強く、あらゆる人間に賞賛される、というあれですね(別になろう小説を揶揄しているわけではなく、単に一般論として挙げているだけなのでご容赦いただきたい)。
そこでコナンを見てみれば、主人公は筋骨逞しい超人的な戦士であり、戦闘においては必ず勝ち、その強さと肉体美を様々な人間から褒め称えられると、ほぼ肩癖に条件がそろっています。あ、あと女性にめちゃくちゃモテることもなろう小説感がありますね。
だから何だと言う訳ではありませんが、現在のなろう小説の流行を見るに、人間の嗜好と言うのは大して変わらないんだなあ、と改めて思った次第。
以下、各話感想です。3巻まで読んでくるとさすがにワンパターンが目立つのが厳しい。作者の手癖で書いているんじゃないかと思われる。まあ、小説家というのも商売なんだし、いろいろ理由はあるんだろうけどね。
黒い預言者
とはいえ、この話はけっこう新機軸を作ろうとしているので好感が持てますね。成功しているかはともかく。まず、冒頭のコナンとヤスミナ姫のアンジャッシュによって事態がややこしくなっていくのは新鮮味はあったけど、それによって面白いかと言うと、うん。なかなか話が進まなくてイライラする方が先に立ってしまうな。しかし、今回の敵の悪の魔術師然とした雰囲気は良かった。倒すために特殊アイテムが必要なところも含めて、TRPG脳を強く刺激してくれるのは良かった。。ライバルの存在も、活かしきれてないのが残念ではあるけど(コナンとは関係のないところで勝手に死ぬ)、新しいことをやろうとはしているね。あと、今回のヒロインであるヤスミナ姫が最後までコナンに堕ち切らなかったのは評価したい。コナンが女性に対してこういう風に敬意を示すのは珍しいんじゃないか。
忍び寄る影
作者には申し訳ないけどこれは駄作。手癖で書いたもの以外ではない。コナンが古代都市にやってきて、ヒロインがエロいピンチになって、怪物と戦って終わり。古代都市も別に掘り下げがなかったし、怪物の描写も手抜きだし、誉めるところがない。
黒魔の泉
お話としてはコナンが暴れるだけのいつも過ぎてイマイチなんだけど、TRPGのシナリオにありそうなガジェットや展開があって不思議な面白味がある。人間の小像化や最後に船員を扇動して大脱出を果たす展開のTRPGあるある感はいいね。
資料編(トムバルクの太鼓)
梗概と草稿しかないけど、3巻収録作品の中では一番面白いな!この話の中ではなんとコナンがわき役になっていて、アキロニアの傭兵アマルリックが主人公になっています。コナンほど圧倒的な力は持っていないので戦闘にもギリギリの戦いを強いられることになるので緊迫感が違う。コナンの前では物言わぬ葦の如くなぎ倒される黒人戦士たちもアマルリックにとっては恐るべき敵になりうるのです。
また、ヒロインの造形もまったく異なります。今まではふてぶてしいまでに強く、セクシーな女性がヒロインになることがほとんどでしたが、アマルリックが出会うリッサという女性は、純真で悪意を知らず好奇心が旺盛な無邪気な少女です。荒んでいたアマルリックが襲おうと野盗を皆殺しにしたのを、自分を助けてくれようしたと勘違いするシーンは、ラノベかよ!と思いました。つまり、時代を70年近く先行していることになります。すごいぜ。しかも、その後の二人のいちゃいちゃぶりは、コナンシリーズにはあり得ないほどにほのぼのしたもので、このカップルは今後も幸せになって欲しいと心から思えるほどです。
残念ながら草稿は古代都市を脱出するところで終わってしまいます。結局、トムバルクの太鼓がなんなのかわからないままで終わってしまいますが、まあ区切りは良いところで終わっただけマシと言うべきか……。でも、後編も読みたかったなあ。
追記。ハワードの作品は時代性もあって黒人に対する差別意識がバリバリではあるんですが、この話ではわりとキャラクターとして個性をつけられているのが特徴ですね。なにしろセリフがある(真顔)。いや、ほんとに、今までは黒人キャラクターなんてセリフはまったくないことも珍しくないけど、冒頭アマルリックと戦う黒人の野盗でさえちゃんとキャラクターがつけられているんですよ。しかも、これは梗概にしか書かれていませんが、後半では黒人の王が主人公たちの味方になって主要な活躍をするらしい。なので、実はハワードは黒人を活躍させようという意図はあったのじゃないかなあ。ただ、それを読者に求められていなかったので書けなかったのではないか、そんな風にも思いますね。
まあ、ただの妄想ですけど。
コメントを残す